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「コーヒー1日3杯で脳腫瘍リスク減」は信用できるのか?

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本当にコーヒーをたくさん飲むと脳腫瘍のリスクが減るのか?

2016年11月5日のニュースで「コーヒー1日3杯で脳腫瘍リスク減?」というニュースが流れ、早速、

「本当にコーヒーは病気を防ぐのか?」

といった不安や希望をもった人たちの議論の的になっています。

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(ヤフーニュースより)

記事の中では

40~69歳の男女約10万人に、コーヒーを飲む頻度など習慣を聞き、その後約20年にわたり経過をみたところ、157人が脳腫瘍を発症した。(中略)その結果、1日3杯以上飲む人は、1杯未満の人に比べて、脳腫瘍の発症リスクが53%低かった。

という成果が国立がん研究センターの研究チームによって発表された旨が記されています。

このニュースをみてヤフーのコメント欄は

「一方では別のリスクを高めるとか結局、どっちなの?
「コーヒーって体にいいとか悪いとかどっちの記事も見るけど結局体にいいの?
「コーヒー関連の仕事してたけど、病歴あり、ホントかな?
「さらなる研究が必要ってことは統計学的に有意じゃないんでしょ?

などなど、

「結局どうすればいいの?」

と混乱しているので、統計学的にどのように考えれば良いか考察してみます。

まず、記事の中では

コーヒーに含まれるクロロゲン酸やトリゴネリンという成分には抗酸化作用などの働きがあり、発症を抑えた可能性があるという。

と記されており、医学的な理由があるようです。

この部分に関しては医学や健康の専門家がそう言うのであれば、そうなんでしょう。まあ、専門家の間でも議論が分かれるのかもしれませんが、その辺は筆者は知りません。

統計学的にコーヒーが脳腫瘍を防ぐとは言えない理由

さて、統計学的にはこの研究の手法では統計学で「コーヒー」と「脳腫瘍」の因果関係を結論づけることはできません。

今回行われた研究手法は「観察研究」(Observational Study)と呼ばれ、調査対象に対して、「コーヒー」を研究者が割りあてるのではなく、調査対象の人たちが普段の生活の中で好きなだけコーヒーを飲んでいます。

ですので、もしかすると例えば

コーヒーを1日3杯以上飲む人は若い人が多く、純粋に高齢者がコーヒーを飲む人が少ないだけかもしれませんし、

または、

コーヒー好きはコーヒーをあまり飲まない人に比べてパンを 多く食べる傾向があって、パンに含まれる成分が脳腫瘍を防いでいるのかもしれませんし、

はたまた、

コーヒー好きはお酒を飲む人の割合が少なくて、それが脳腫瘍を減らしているのかもしれません。

これらの、私たちが気づかないところでコーヒーの摂取量と脳腫瘍の発症両方に関係しているかもしれない要因を統計学では交絡変数(Confounding Variable)と呼びます。

そして普段の人間の生活を観察して何らかの結論を得ようとする「観察研究」においては、このような交絡変数が必ず存在するため、因果関係を結論づけることはできないのです。

ですので、社会学や人間の健康を扱う調査はほとんどがこのような観察研究であるため、例えば

「親の年収が高い子供はいじめを受けにくい!」とか、
「朝食を普段食べない人は脳出血のリスクが上がる!」とか、
「共働き夫婦の割合が多い地域は出生率が高い!」とか、

こういったよくある新聞記事の見出しはすべて統計学的に因果関係を結論付けてはいけません。

ただ、こんなレベルの仮定が「統計学的に有意な結果」が出たという理由で、本来は因果関係を結論づけることができないのにも関わらず、あたかも因果関係が証明されたかのように、マスコミで間違った情報が流れています。

本当に怖い話です。

(「統計学的に有意」の意味するところは「統計学の基礎」のページの「有意差とは何か?」で解説します。)

仮に因果関係を結論付けたい場合はどうすればよいのか?

さて、それでは「コーヒー」と「脳腫瘍」の因果関係を結論づけたい場合はどのように研究を行えばよいのでしょうか?

その場合は「実験研究」(Experimental Study)と呼ばれる手法を用います。

例えば調査対象の10万人をランダムに5万人づつのグループに分けて、

片方のグループの人たちにはその後20年間毎日コーヒを3杯以上飲んでもらいます。
そして、もう一方のグループの人たちには20年間コーヒーを飲むのを1日1杯未満にしてもらいます。

このように、グループを意図的にランダムに分け、研究者が「コーヒー」を各グループに割りあてる設定の下では、結果が統計学的に有意な場合、因果関係を結論づけることができます。

グループをランダムに分けることにより、交絡変数の効果が取り除かれているからです。

ただ、前述したように人間の食習慣や社会学的な調査において、グループをランダムに分けて何らかの処理(「コーヒーを飲む」)を割りあてることは現実的ではないため、通常は因果関係を結論づけることができない観察研究の手法を採らざるを得なくなります。

この実験は実際に統計学的に有意なのか?

この記事を読んだだけでは、コーヒーを1日3杯以上、1~2杯、1杯未満飲む人たちがそれぞれ何人だったのか分からないので

1日のコーヒー サンプルの人数 脳腫瘍発生人数
3杯以上 3万人 33人
1〜2杯 4万人 54人
1杯未満 3万人 70人
合計 10万人 157人

と仮定して考えてみます。

このデータではコーヒーを1日3杯以上飲む人の方が1杯未満の人に比べ発症率が53%低くなるようにしました。

さて、このデータを下に統計学的に片側検定を行うと、P値は約0.00013となり、この検定は「統計学的に有意である。」という結論が得られます。

このように、コーヒーを飲む量と脳腫瘍の発生率は、このデータから統計学的に有意な関係が得られましたが、だからといって、コーヒーと脳腫瘍の間に因果関係がある、と結論付けてはいけないのです!

じゃあ結局コーヒー飲んだ方がいいの?

では、結局どうすればいいのか?というと実際のところ筆者には分かりません。
僕自身はコーヒー大好きなので、都合の良い情報だけ信じますが!

と、これを結論にしてしまうのもあんまりなので最後にもう一つ。

繰り返しますが、この記事を読んだだけでは、各グループの人数が分からないので

1日のコーヒー サンプルの人数 脳腫瘍発生人数
3杯以上 3万人 33人
1〜2杯 4万人 54人
1杯未満 3万人 70人
合計 10万人 157人

と仮定した場合、

1日3杯以上コーヒーを飲む人の脳腫瘍発症率は33/30000=0.11%、1日1杯未満の人の脳腫瘍発症率は70/30000=0.23%.

その差は約0.12%。

つまり、コーヒーを1日3杯以上飲む生活を20年続けると、脳腫瘍が発症する確率が約1000分の1下がるということですね。

毎日コーヒーを3杯以上飲み続けて脳腫瘍の確率を千分の1下げたい方は20年後のために試してみたらよいかもしれませんが、もし筆者自身がコーヒードリンカーでなければ、僕であればわざわざそのためにコーヒーを飲まないと思います!


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